俳優 津田寛治インタビュー[漫画 ダブル連載記念企画]

 『模倣犯』そしてブレイク」

自作のHPに集まってくれていた
ファンからの縁で決まった『模倣犯』

野田:津田さんは自分のホームページも自作されてましたよね。私も読ませていただいていたので、サーバーのサービス終了で閉鎖してしまったのが残念なんですが。

津田:あれはね、もともとは映像編集をやりたいと思って買ったパソコンのバンドルソフトにホームページ制作ソフトがあって、自分で作ってみようと思ったら意外にハマっちゃったんです。でも、そこに集まってくれるファンの人も少しだけいて、実はそのなかの一人がきっかけで森田芳光監督から『模倣犯』の仕事をいただいたんですよ。

:ファンの方が6~7人ぐらいしかいなかったので、BBSを公認にして、決まった時間に集まったりしていました。そこで私はマネージャーとして「今、津田はドラマを撮影しています!」といった書き込みをしたりして、コミュニティみたいな形ですごくみなさんと仲良くしていました。

津田:主人公のピース役は中居正広さんに決まっていて、だったら高井和明は藤井隆だと。で、アイドル・お笑い芸人ときたら、あとはアングラだ! と、監督がまだあまり世に出ていない役者を探していたらしいんです。もちろん東宝側は有名な方を推していたそうですが、森田監督は「ここに有名どころを持ってきたらバランスが崩れるんだ!」と譲らずだったのだと聞きました。でもなかなか見つからなくて、とうとう監督が事務所の人たちに「俺に紹介してって頼まれてる役者とかいないの?」と声をかけ始め、そこで「そういえば私の友達で売れてない俳優にハマっている人がいまして」という話から津田寛治という名前が出た、と。その経緯を我々が知ったのは、もっと後のことなんですが。

:だから、こちらにしてみたら突然オファーが来たわけなんです。しかも『模倣犯』という作品名と監督名だけで、また役柄は知らされていませんでした。チョイ役かもしれないし通行人Aくらいかもしれない。それでもスケジュールは期間中すべて確保しないと決められないと言われまして。

実はその時、別の映画の仕事が内定していたんです。しかも私が営業をして決めた仕事で、その当時の津田寛治にとってはかなり大きい役でした。本来なら仁義を切って先に決めていただける仕事を優先するべきなんですけれど、そこで津田本人に相談せず黙って断る事はできなかったので、「森田組の話をいただいたんだけど、どうしますか?」と連絡をしたんです。

津田:そこで僕は森田監督の大ファンだったので、「申し訳ないけど、森田さんの方に出たい!」と。

:役の大小もわからない、と伝えても、本人がそれでも構わないと言うので、その足で、内定を頂いていた作品のプロデューサーにお断りに行きました。土下座をする勢いでお詫びをして、「わかりました」と言ってもらい、そのまま『模倣犯』のスタッフルームに「スケジュールをすべて確保しましたのでぜひよろしくお願い致します!」と伝えに行きました。そしてそこで、恐る恐る役について質問してみたら「あれ、言ってなかったっけ?」って脚本を出されて、この役だよって指を指されたのが(メインキャストの)栗橋浩美役でした。もう椅子から落っこちるぐらい驚きました。

津田:僕は最初に話を聞いてから、とりあえず『模倣犯』の原作を飯も食わず夜も2〜3時間しか寝ずに読みふけってました。しかも、「この浩美って役ができたら最高だな」と思いながら。それくらい当時の自分がやりたい役にぴったりだったんですが、まさか自分にくるとは思ってもいなかったので「浩美、誰がやるんだろう……」と悶々としながら読んでましたね。

:出演できなかった映画の方にはその後、そりゃあ浩美役だったらウチなんて断るよね~って言われてしまいました。本当に役は聞かされていなくて、通行人Aでもいいからって受けたんですけれど……。

この話には後日談があって、そもそもファンの方が津田を推薦してくれた話は、後々、森田監督と食事をする機会があって、そこでお聞きしました。

野田:やっぱり『模倣犯』で状況は変わりましたか?

津田:変わりましたね、あれで賞もいただいたりしたんで。

:『模倣犯』と同じ年に出演していた『仮面ライダー龍騎』の2作品の活躍に対して、ブルーリボン助演男優賞を頂きました。受賞があってからは驚くほどまわりの反応が変りました。営業に言っても相手にされなかった方々からオファーがたくさん来たんです。本当に驚きました。全局のドラマからオファーを頂くぐらいの勢いでした。その時ちょっと天狗になってしまったマネージャーの私とは裏腹に、寛治さんはとても冷静でしたね。

津田:いや俺もめっちゃ天狗だったよ(笑)。

:受賞の連絡があった時、私は震えちゃって、事務所で号泣してしまったんですよ。それで、泣きながら寛治さんに「受賞しました!」と電話をしたら、「よかったね、星さん」って言われたんです。

津田:いやあ、あのときは俺、すんごい高熱出して寝込んでて、朦朧としてたんですよ。

:それは後々知ったんですけれど(笑)。とにかくその時は、私がこれまでプロフィールを突き返されたり「津田寛治?知らねえよ」って言われてきた事の苦労をねぎらってくれていると思いました。
「これで星さんの仕事がやりやすくなるね」って言ってくれているみたいで。

津田:無下にされて、星さんはすごく傷ついていたはずなんです。

:そんな風に、いつも私が有頂天になるのを、寛治さんが平常心で抑えてくれている、という関係です。

津田:津田寛治っていうキャラクターがあって、それを二人で操縦しているような感覚ではありますね。俺が運転手で星さんがメカニック、みたいな。

(津田寛治インタビュー(3/3) 「舞台、映像、漫画、それぞれの表現」に続く)